製造業

Vol.01

Vol.01 町工場の技術を次世代へつなぐ経営

2026年6月1日

Vol.01 町工場の技術を次世代へつなぐ経営

PROFILE

会社名:株式会社サンプル製作所

代表者名:山田太郎

所在地:東京都墨田区向島三丁目

設立年:1998年

従業員数:32名

事業内容:精密板金部品の試作、小ロット加工、治具製作

サイト:sample-seisakusho.example.jp

朝7時半、向島の工場では古いシャーリング機の横で、若手が試作用のアルミ板に印を付けていました。山田太郎代表は図面の端に赤鉛筆で「ここだけ曲げ順を変える」と書き込みます。量産前の一枚に、会社の癖が出ます。

始まりは、予定通りにいかなかった一日から

山田氏が今の事業を語るとき、最初に出てくるのは成功した案件ではありません。「きれいに進んだ仕事より、手が止まった日のことの方が覚えています」と話します。創業時から順調だったわけではなく、むしろ早い段階で自分たちの弱さを見せつけられました。

——最初から今の形を狙っていたのですか。
山田氏: 「違います。最初は売上を作ることで頭がいっぱいでした。ただ、2009年の秋、月商の4割を占めていた取引が止まり、三日ほど機械を動かせない週がありました。その時に、数を追うだけでは続かないと分かりました。何を受けて、何を受けないか。そこを決めないと、会社の体力が先に削られるんです」

転機になったのは、大口の量産を追わず、試作と小ロットに寄せたこと

転機は大きな投資ではなく、日々の優先順位を変えたことでした。株式会社サンプル製作所では、売上表の横に現場のメモを置き、数字だけでは判断しない習慣を残しています。たとえば一件あたりの利益が高くても、準備に無理が出る仕事は次回の受け方を変える。逆に小さな依頼でも、次の関係につながるものは丁寧に拾います。

「判断を遅らせると、結局だれかが現場で無理をします」と山田氏は言います。会議で決めるのは、理想の話ではありません。今週の人員、道具、移動時間、担当者の疲れ具合。そうした細かい条件を並べたうえで、受ける量を決めています。

強みは、派手な言葉より手順に出る

同社のこだわりは、曲げ順、バリ取り、納品箱の向きまで、図面に出ない手順を残すことです。外から見ると地味ですが、ここを曖昧にすると品質は簡単に揺れます。取材中にも、山田氏はスタッフの一言に何度かメモを取りました。理由を聞くと「あとで本人に返すためです。聞きっぱなしにすると、次から言ってくれなくなる」と答えました。

——人を増やせば解決する問題ではない。
山田氏: 「そうですね。人数を増やす前に、迷う場所を減らす方が先です。うちは大きな会社ではありません。だからこそ、一人の経験を一人の中に閉じ込めない。写真でも、短いメモでも、次の人が使える形にしておく。それだけで翌月のミスが減ることがあります」

これから広げたいこと、広げないこと

これからの目標は、荒川沿いの小さな工場同士で、試作案件を断らず回せる網を作ることです。ただし、山田氏は拡大を急ぎません。採用を増やす、拠点を増やす、広告を強める。選択肢はありますが、今の顧客に向き合う時間が削られるなら採らないと決めています。

最後に、同じ地域で事業を続ける人へ伝えたいことを尋ねました。少し考えてから、山田氏は「自分たちが続けられる速度を、他人の物差しで決めないこと」と答えました。大きく見せるより、明日も同じ品質で開けること。この記事に出てきた姿勢は、多くの小さな会社に通じる現実味があります。

取材後、工場の壁にはその日の試作番号が小さく貼られていました。山田氏は「残すほどでもない一枚ほど、次の仕事で効いてくる」と言います。積み重ねを大げさに語らないところに、この会社の強さがあります。

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