Vol.21
Vol.21 江東区清澄の麦島パートナーズが精密治具で次の担い手へ渡す仕組み
2025年12月30日

PROFILE
会社名:株式会社麦島パートナーズ
代表者名:戸倉 啓吾
所在地:東京江東区清澄
設立年:2020年
従業員数:12名
事業内容:精密治具、樹脂切削部品、地域企業向けの相談対応
サイト:vol21-manufacturing.example.jp
江東区清澄の古い旋盤の横で、戸倉 啓吾代表は精密治具の納品前チェックをしていました。派手な発表はありません。けれど、公差の理由を若手に説明するという一つの癖に、この会社の続け方が出ています。
最初の転機は、売上が止まった週にあった
戸倉 啓吾代表が最初に語ったのは、売上が伸びた話ではありません。2027年2月、主力だった仕事が二件続けて止まり、予定していた人員表が空白になりました。「精密治具の件数が多いことと、株式会社麦島パートナーズが強いことは別でした」と振り返ります。
——忙しいのに苦しかった時期はありましたか。
戸倉 啓吾氏: 「狙っていたというより、検査表を現場の言葉に直したことが先でした。売上だけ見れば痛かったです。でも、そこで受け方を変えなければ、12人の会社なのに一人の我慢で回す形になっていたと思います。今は月末に31項目だけ、現場のメモを見返します」
数字だけで決めないための表を作った
株式会社麦島パートナーズでは、案件ごとの採算だけでなく、準備にかかる手間、担当者の得意不得意、翌週に残る疲れまで見ます。たとえば精密治具の依頼でも、短納期で説明が薄いものは一度立ち止まる。逆に樹脂切削部品のように小さく見える相談でも、次の関係につながるものは丁寧に拾います。
古い旋盤の横にある表は、外から見るとただの走り書きです。納期、数量、連絡待ち、迷った理由。そこに整った言葉はありません。けれど戸倉 啓吾代表は「書いた本人が翌週読めるなら十分」と言います。判断を飾らず残すことが、同じ迷いを減らしています。
現場の迷いを翌月に残さない
——記録を続けるための工夫は。
戸倉 啓吾氏: 「最初は手順書を厚くしようとしました。でも読まれないんです。今は、公差の理由を若手に説明することから始めています。写真一枚、短い一文、朝礼での確認。それくらい小さくしないと続きません」
この日、株式会社麦島パートナーズでは精密治具の相談が二件重なっていました。戸倉 啓吾代表は順番を決める前に、誰が何を見落としそうかを聞きます。予定表より先に迷いを出す。そこが現場を軽くしています。
広げる前に守りたいこと
戸倉 啓吾代表の関心は、無理な受注を減らしながら、紹介で来た仕事を断らない体制づくりにあります。広げる前に、今の12人で約束を守れるかを見る。そこを飛ばすと、江東区清澄で積み上げてきた紹介の理由が弱くなると言います。
——次の10年で残したい景色は何ですか。
戸倉 啓吾氏: 「大きく見せるより、明日も同じ温度で古い旋盤の横に立てることだと思います。精密治具は速さだけで勝てない場面が多いです。断る理由、待ってもらう理由、もう一度頼まれる理由を、自分たちの言葉で持っておきたいです」
帰り際、古い旋盤の横には次の予定を書いた小さな紙が残っていました。戸倉 啓吾代表はそれを見て、「こういう紙が一番あとで効くんです」と笑います。こうした名もない紙には、続ける会社に必要な細部が宿ります。