Vol.05
Vol.05 空き家相談から始まる街の資産づくり
2026年4月15日

PROFILE
会社名:サンプル不動産株式会社
代表者名:田中健
所在地:北海道札幌市白石区本郷通
設立年:2007年
従業員数:18名
事業内容:空き家相談、賃貸管理、相続前後の不動産整理
サイト:sample-estate.example.jp
雪が残る札幌の路地で、田中健代表は空き家の郵便受けにたまったチラシを一枚ずつ抜いていました。売るか貸すかの前に、持ち主の気持ちが止まっている。そこから話を始める会社です。
始まりは、予定通りにいかなかった一日から
田中氏が今の事業を語るとき、最初に出てくるのは成功した案件ではありません。「きれいに進んだ仕事より、手が止まった日のことの方が覚えています」と話します。創業時から順調だったわけではなく、むしろ早い段階で自分たちの弱さを見せつけられました。
——最初から今の形を狙っていたのですか。
田中氏: 「違います。最初は売上を作ることで頭がいっぱいでした。ただ、2014年、査定額だけを伝えて帰った案件が半年後に雨漏りし、解体費が増えてしまいました。その時に、数を追うだけでは続かないと分かりました。何を受けて、何を受けないか。そこを決めないと、会社の体力が先に削られるんです」
転機になったのは、売買仲介だけでなく、空き家相談を入口にしたこと
転機は大きな投資ではなく、日々の優先順位を変えたことでした。サンプル不動産株式会社では、売上表の横に現場のメモを置き、数字だけでは判断しない習慣を残しています。たとえば一件あたりの利益が高くても、準備に無理が出る仕事は次回の受け方を変える。逆に小さな依頼でも、次の関係につながるものは丁寧に拾います。
「判断を遅らせると、結局だれかが現場で無理をします」と田中氏は言います。会議で決めるのは、理想の話ではありません。今週の人員、道具、移動時間、担当者の疲れ具合。そうした細かい条件を並べたうえで、受ける量を決めています。
強みは、派手な言葉より手順に出る
同社のこだわりは、価格を急がず、家族の誰が何に困っているかを先に整理することです。外から見ると地味ですが、ここを曖昧にすると品質は簡単に揺れます。取材中にも、田中氏はスタッフの一言に何度かメモを取りました。理由を聞くと「あとで本人に返すためです。聞きっぱなしにすると、次から言ってくれなくなる」と答えました。
——人を増やせば解決する問題ではない。
田中氏: 「そうですね。人数を増やす前に、迷う場所を減らす方が先です。うちは大きな会社ではありません。だからこそ、一人の経験を一人の中に閉じ込めない。写真でも、短いメモでも、次の人が使える形にしておく。それだけで翌月のミスが減ることがあります」
これから広げたいこと、広げないこと
これからの目標は、白石区と厚別区で、相続前の住まい点検を年120件まで増やすことです。ただし、田中氏は拡大を急ぎません。採用を増やす、拠点を増やす、広告を強める。選択肢はありますが、今の顧客に向き合う時間が削られるなら採らないと決めています。
最後に、同じ地域で事業を続ける人へ伝えたいことを尋ねました。少し考えてから、田中氏は「自分たちが続けられる速度を、他人の物差しで決めないこと」と答えました。大きく見せるより、明日も同じ品質で開けること。この記事に出てきた姿勢は、多くの小さな会社に通じる現実味があります。
田中氏は、古い家の価値を金額だけで見ないと繰り返します。庭木、仏壇、近所づきあい。売却前に整理するものは多い。「急がせないことも仕事です」という言葉が、相談業の輪郭を作っていました。