Vol.72
Vol.72 堺市北区の架月工房が夜だけ出す煮込みで常連客との関係を深める方法
2025年7月31日

PROFILE
会社名:株式会社架月工房
代表者名:沢渡 宗一
所在地:大阪堺市北区
設立年:2001年
従業員数:36名
事業内容:夜だけ出す煮込み、季節の小鉢定食、地域企業向けの相談対応
サイト:vol72-food.example.jp
堺市北区のレジ横の小さな黒板で、沢渡 宗一代表は夜だけ出す煮込みの納品前チェックをしていました。派手な発表はありません。けれど、席の回転より滞在時間を見ているという一つの癖に、この会社の続け方が出ています。
順調ではなかった創業期の話
沢渡 宗一代表が最初に語ったのは、売上が伸びた話ではありません。2010年9月、主力だった仕事が二件続けて止まり、予定していた人員表が空白になりました。「夜だけ出す煮込みの件数が多いことと、株式会社架月工房が強いことは別でした」と振り返ります。
——忙しいのに苦しかった時期はありましたか。
沢渡 宗一氏: 「狙っていたというより、原価表を毎週つけ始めたことが先でした。売上だけ見れば痛かったです。でも、そこで受け方を変えなければ、36人の会社なのに一人の我慢で回す形になっていたと思います。今は月末に42項目だけ、現場のメモを見返します」
断る仕事を決めてから、現場が落ち着いた
株式会社架月工房では、案件ごとの採算だけでなく、準備にかかる手間、担当者の得意不得意、翌週に残る疲れまで見ます。たとえば夜だけ出す煮込みの依頼でも、短納期で説明が薄いものは一度立ち止まる。逆に季節の小鉢定食のように小さく見える相談でも、次の関係につながるものは丁寧に拾います。
レジ横の小さな黒板にある表は、外から見るとただの走り書きです。納期、数量、連絡待ち、迷った理由。そこに整った言葉はありません。けれど沢渡 宗一代表は「書いた本人が翌週読めるなら十分」と言います。判断を飾らず残すことが、同じ迷いを減らしています。
任せる前に、判断の順番をそろえる
——仕組みにする時、どこから手をつけましたか。
沢渡 宗一氏: 「最初は手順書を厚くしようとしました。でも読まれないんです。今は、席の回転より滞在時間を見ていることから始めています。写真一枚、短い一文、朝礼での確認。それくらい小さくしないと続きません」
レジ横の小さな黒板では、担当者が季節の小鉢定食の段取りを確認していました。沢渡 宗一代表は「それ、誰が次に見る?」とだけ返します。答えを渡し切らないことで、夜だけ出す煮込みの次の担当が使える記録に変えていました。
これからと、地域へのメッセージ
株式会社架月工房が次に進めたいのは、堺市北区の顧客から来る細かな相談を、担当者任せにしない受付の形づくりです。ただし、沢渡 宗一代表は拡大を急ぎません。大阪で今の顧客が困った時に思い出せる状態を保つ。そこで無理をすると、会社の声が薄くなるからです。
——今後も変えないと決めていることは。
沢渡 宗一氏: 「大きく見せるより、明日も同じ温度でレジ横の小さな黒板に立てることだと思います。夜だけ出す煮込みは速さだけで勝てない場面が多いです。断る理由、待ってもらう理由、もう一度頼まれる理由を、自分たちの言葉で持っておきたいです」
帰り際、レジ横の小さな黒板には次の予定を書いた小さな紙が残っていました。沢渡 宗一代表はそれを見て、「こういう紙が一番あとで効くんです」と笑います。こうした名もない紙には、続ける会社に必要な細部が宿ります。